八幡平の作り手 土づくりから始まる
ネギ栽培 気候条件を活かして
京野菜の九条ネギを八幡平で。 合同会社みのり風土 村上博信さん
八幡平市にある「みのり風土」は、
岩手では馴染みが薄い九条ネギの栽培に力を入れている。
高い品質を保つために、土づくりから手がけている。
「葉ネギの王様」と呼ばれる
九条ネギと出会う
京都の伝統野菜である九条ネギ。岩手県内で栽培される長ネギと異なり、葉ネギである九条ネギは茎が細身で葉の緑色部分が長いのが特徴である。食感は柔らかく、甘味があり、薬味や鍋などの具材として重宝される。
この九条ネギを八幡平市で唯一栽培しているのが「みのり風土」だ。
代表の村上博信さんが就農を志したのは、十数年前のこと。盛岡市手代森にある東日本機電開発株式会社で特殊肥料『イグナール』を使った技術指導に携わっていたときである。
「農家さんに肥料の説明をしに行ったとき、『そんなにいいものなら、自分で使ってみないと説得力がない』と言われたのです」と当時を振り返る。「確かにそうだ」と思った村上さんは就農に向けて動き、八幡平市の大規模農家で1年間の研修を受けた。そして、2012年(平成24)にみのり風土を設立した。
最初はお金も人手もなかったことから、機械がいらず、家族でできるキュウリを選択。秋からは長ネギの栽培をした。
「キュウリを選んだものの、収穫時期はとても忙しくて、会社経営をしている意味を見出せず悩みました」
キュウリは収穫するのに良い時間帯は朝と夕方だ。夏場はキュウリの生長が早く、朝から夕方まで数センチも伸びる。そのために朝と夕に収穫する。
「日中にパートさんが来て詰め作業をするため、夜明け前から収穫しなければならない。夕方になるとパートさんは帰るので、夕方の収穫と詰め作業は自分ひとりで行わなければならないのです。収穫期は休みがなく、会社組織として考えると余裕がないのです」
会社としてどうするべきかを考えているときに、以前から関わりがあった京都の会社から九条ネギの栽培を勧められた。4年前のことである。
「京都では九条ネギは欠かせない食材。しかし、温暖化などの影響で、夏の猛暑で京都では栽培が難しくなってきているというのです。その時期に生産できる地域を探しているということでした」
九条ネギは25度を超えると生育が止まる。冷涼で1日の寒暖差がある八幡平の気候風土は、九条ネギの栽培に適していた。
キュウリと並行して40アールを作付けることにしたが、「九条ネギの栽培は片手間ではできない」という話を聞き、九条ネギ1本に変更。栽培品目を絞ったことで、細部まで目が行き届いた管理を行うことができた。
土づくりを大切にし
品質と生産量の向上を図る
九条ネギにもさまざまな品種がある。みのり風土で栽培しているのは「あんじょう種」というもの。九条ネギの原種を親に持ち、特に栽培管理が難しいといわれる。しかし、手間をかけた分、ほかの品種より柔らかさや風味がよい。
九条ネギの栽培は2月から始まる。ポットに種を蒔き、ある程度大きくなってからマルチを張った畑に植える。植える間隔も前後左右21センチ間隔と決まっている。収穫は6月から10月まで続く。
収穫したばかりの九条ネギは切り口からぬめりを帯びた水分がぽたりと落ちてくる。このぬめりが九条ネギの甘さとおいしさの源だ。
「九条ネギは1年間で3回収穫できます。しかし、強風や大雨などで倒伏すると根本が腐ってしまうため、収穫できなくなります。だから強風や大雨の後はいち早く手当をしなくてはなりません」
村上さんは、九条ネギのための土づくりを大切にしている。九条ネギは連作に向かないため、冬は畑を休ませ、その間にハウスで堆肥づくりを行う。牛糞や鶏糞の中熟堆肥に菜種粕などを加え再発酵させた堆肥は、ミネラル成分を多く含む。苗を定植する前に畑の状況に合わせてすき込みされる。
4アールから始まった九条ネギの畑は、現在5ヘクタール。今年から陸前高田市でも栽培を始めた。
収穫された九条ネギは、農協の真空予冷庫に仮置きされ、300ケースになったら静岡県藤枝市にある工場に出荷される。
「契約栽培なので量を守るのはもちろんですが、品質の高さも求められます。当社の九条ネギは本場・京都でも高評価を得ています」
その評価もあり、岩手県内の青果卸業者やメーカーなどから声がかかり、取引が増えてきた。新たにリーキ(西洋ネギ)の栽培も始めた。
「作付面積を増やしても品質を落とさないことが大事」と村上さん。生産に集中しながら、農業法人として次の展開を考えている。
岩手山から八幡平、安比高原へと山々や高原が連なる八幡平市。岩手山の伏流水に恵まれ、日照時間も長く、1日の寒暖差が大きい。この気候風土がみのりある大地を育て、おいしい野菜や果物を育てる。
合同会社みのり風土
岩手県八幡平市大更3-127 九条ネギ調整所
TEL 090-8924-9825
HP https://agri.mynavi.jp/minori/