八幡平の作り手 循環型有機農業への挑戦 馬ふんと地熱
自然の力でつくる「マッシュルーム」 企業組合八幡平地熱活用
プロジェクト/ジオファーム・八幡平 船橋慶延さん
おいしいマッシュルームを栽培するには、馬ふんベースの堆肥が欠かせない。
「八幡平ジオファーム」では、馬ふん堆肥と温泉地熱を活用し、
マッシュルームと馬ふん堆肥を生産している。
自然を活用し、生まれた食材には、八幡平の恵みが詰まっている。
引退馬の生命を全うしたい
馬から始まる循環型農業を目指して
八幡平市は「地熱」と縁が深い。秘湯として名高い藤七温泉や松川温泉などの温泉が湧出し、日本初の商業用地熱発電所として運転を始めた松川地熱発電所もある。「ジオファーム八幡平」は、この地熱を活用し、マッシュルームと馬ふん堆肥の生産を行っている。
代表の船橋慶延さんは、大阪生まれ。5歳のときにポニーの引き馬の体験をして以来、馬に魅せられ、馬とともに人生を歩んできた。高校時代には馬術大会で好成績を修め、卒業後は競走馬の育成に携わりながら馬術の技も磨いている。
仕事のため、栃木、北海道と転居を繰り返してきた船橋さんが、八幡平市に移住してきたのは、2012年(平成24)3月のこと。知人が経営する牧場に勤めながら、「引退した競走馬のためにできること」を探り始めた。というのは、競走馬として成功するのはひと握りの馬であり、そのほかの馬は引退すると殺処分されるのが一般的だからだ。手始めに「馬ふん堆肥」の販売を行った。臭わない、軽い、扱いやすい馬ふん堆肥は、家庭菜園に最適で人気が出た。東京の「銀座ミツバチプロジェクト」で、銀座のビルの屋上庭園緑化にも使われるようになった。 次に考えたことは、昔から馬の文化が息づいている八幡平の地域性を活かした循環型有機農業。そのためには、馬ふん堆肥の安定供給が不可欠だが、八幡平の冬の厳しさが問題となった。
「八幡平の冬は氷点下10度を下回る。しかし、堆肥の発酵には熱が必要なのです」と船橋さん。そこで着目したのが、八幡平には豊富にある「温泉の地熱」だった。
船橋さんが中心となり、有志を集め、「企業組合八幡平地熱活用ブロジェクト」を設立。温泉施設「八幡平南温泉 旭日之湯」の隣に「ジオファーム八幡平」をつくった。
馬ふん堆肥で育てた野菜は、旨味がつよくなると評判だ。
馬ふん堆肥と地熱を活用し
安心・安全・おいしい農作物を
八幡平の牧草地で草を食べた馬の馬ふんで堆肥をつくり、農作物を育てる。何を育てようか。せっかくだから、馬に関係するものがいい。
「そういえば、シャンピニオン・ド・パリは、馬きゅう肥で育てている。これは、伝統的な栽培方法である」
シャンピニオン・ド・パリは、フランスのマッシュルームのこと。
「マッシュルームの栽培には、雑菌が大敵。温度と湿度の管理が重要です。しかし、八幡平の冬は寒い」
ここでも役立ったのが、温泉の地熱だった。
現在、ジオファーム八幡平では、ホワイトマッシュルームとブラウンマッシュルームを育てている。ひとつひとつ手で摘み、新鮮なうちに出荷するので、生でも味わえると好評だ。
マッシュルームは、もちろん馬ふん堆肥と藁がベースとなる培地で菌を育てる伝統的な栽培方法で生産する。岩手山の伏流水と澄んだ空気が、味と食感の良さをつくる。ホワイトは、まろやかで上品な味わい。ブラウンは、ホワイトより香りが高く、旨味も濃い。ニンニクとオリーブオイルでアヒージョにしたり、丸ごとフライにしたりと、手軽においしく食べられる。実は、マッシュルームは日本料理の食材としても利用価値が高いことをご存知だろうか。旨味が濃いので、出汁の代わりになる。炊き込みご飯はもちろん、みそ汁の具としても相性が抜群である。
ジオファーム八幡平は、八幡平マッシュルームを乾燥チップやパウダーにしたり、マッシュルーム菓子「八幡平おこし」にしたりと六次化産業も手がけている。
「馬の堆肥でウマいものをつくって、みんなに『馬っていいね』っていってもらいたい」と船橋さん。そして、馬がいる八幡平の風景を見にきてほしい。船橋さんたちの挑戦は、これからも続く。
十和田八幡平国立公園を有する八幡平市は、温泉が豊富なまち。東日本最高地にある藤七温泉、秘湯とし全国に知られる松川温泉など、市内のいたるところに温泉が湧いている。また、日本初の地熱発電所であり、2016年(平成28)、機械遺産に認定された松川地熱発電所も有し、「地熱」となじみが深い。
ジオファーム八幡平は、隣接する温泉施設「旭日之湯」の温泉地熱を利用して、馬ふん堆肥とマッシュルームを生産している。
企業組合八幡平地熱活用プロジェクト/ジオファーム・八幡平
岩手県八幡平市松尾寄木1-1483
TEL 0195-70-2850
HP http://geo-farm.com/