八幡平の作り手 素材の持ち味を大切に 大豆の自然な甘味を引き出した
「おぼろ豆腐」と「汲上げ湯葉」 株式会社ふうせつ花 石田逸平さん


八幡平市安代地区にある豆腐専門店「ふうせつ花」。
国産大豆と水にこだわってつくられた豆腐は、
大豆本来の旨味と甘味が残り、食感もなめらか。
妥協のない製造への姿勢は、全国の料理人や食通に認められている。
ふうせつ花のおいしさの
基本は大豆と水にあり
『豆腐百珍』という書物をご存知だろうか。江戸時代に書かれたもので、書名どおり、豆腐料理が100品も掲載されている。「木の芽田楽」や「雉焼きでんがく」などの庶民に親しまれている料理から「海老とうふ」などの料理法がユニークなものまであり、ベストセラーになったという。料理本が発行されるくらい、豆腐は庶民にとって身近な食品だったのだろう。それは現代になっても変わらない。
豆腐は、大豆、にがり、水でつくられる。シンプルなだけに、素材の善し悪しがポイントとなる。大豆の品質が豆腐の出来を左右する。
「大豆を吟味することは『ふうせつ花』のおいしさの基本です」と話すのは、石田逸平さん。
ふうせつ花が使うのは、国産大豆の中でも、在来品種に限っている。品質を保つため、季節に応じて産地を変える。在来品種とは、「その土地に長く古くから栽培し続けられてきた品種」である。在来品種は、品種改良されていない昔ながらの大豆の特性を持っているため、収穫量が少なく稀少。しかし、甘くておいしいという。「昔から育てられているのは、おいしい大豆だから」という考えもあってのことだ。
そして、水。豆腐の80パーセントは水でできている。そのため、ふうせつ花では、おいしい豆腐づくりに大切な水を工房の敷地内にある井戸から得ている。その井戸の深さはなんと91メートル! 本来65メートルより深く掘ると地下水脈は細くなる。大量の水を使う豆腐づくりには不向きだが、石灰層を通った水はきれいに磨かれ、大腸菌などの一般細菌がほとんど混入しないという。自然豊かな八幡平だからこその水である。

「豆腐はつくればつくるほど、奥深い」と話す。

ふうせつ花では地下91メートルの地下水脈から汲み上げている。
大豆の甘さと旨味を
最大限に引き出した豆腐
原料を厳選しただけでは、おいしい豆腐にはならない。大豆の持ち味を引き出す技術も必要だ。大豆の浸水時間、蒸す温度と時間など、製造過程のひとつひとつを大切にしている。
「大豆の蒸し方を数字で表すことはできます。さらに職人としての経験が加わります。例えば、蒸気に混じる大豆の匂い、釜の中の音を聞き分けるなどです」と石田さん。
ふうせつ花の商品の中でぜひとも賞味してほしいのが「ざるおぼろ豆腐」だ。一般的に見かけない豆腐である。それもそのはずで、時間的にもコスト的にもぜいたくなつくりの豆腐で、ふうせつ花では、八幡平市安代にある工房でのみ取り扱っている。濃い豆乳にわずかなにがりを加え、ざるに何度も薄くすくい、自然に水が落ちていくのを待つ。
「圧力をかけて水を抜くふつうの豆腐と比べ、豆乳の味がします」と石田さん。ひと口味わうと、口の中に大豆の香りが広がり、喉こしも滑らか。醤油より塩をひとつまみふりかけて食べたい味である。大豆の味とコクをより感じたいなら、二日目に味わうのがおすすめである。
もうひとつ、「汲上げ湯波」も忘れてはならない。湯波といえば乾燥したものをイメージするが、ふうせつ花の湯波は生湯波。豆乳を低温で温め、時間をかけて1枚ずつ手で汲み上げていく。口の中でとろりと溶けていく湯波は、大豆の旨味そのものが残っていて、いつまでも余韻が残る。
豆腐は栄養価が高くヘルシーな健康食材。『豆腐百珍』が示すように、料理もバラエティー豊か。八幡平の工房で、ていねいに手づくりされたふうせつ花の豆腐で、食卓を彩ってみてはいかがだろうか。


国産大豆には、在来品種と改良品種がある。「ふうせつ花」で使用しているのは在来品種。黄大豆、緑大豆、黒大豆、茶大豆の4種類があり、それぞれ味わいが異なる。料理に応じて選ぶのがおすすめ。
株式会社ふうせつ花
岩手県八幡平市保戸坂236
TEL 0195-72-8008
HP http://fusetsuka.com/