八幡平の作り手 暮らしの中の漆器 天然素材100パーセント
親から子へと受け継ぐ「漆器」 安比塗漆器工房
(安比塗企業組合) 工藤理沙さん
漆器生産地として名を馳せた安代地区の「荒沢漆器」。
その流れを受け継いでいるのが、「安比塗漆器工房」である。
天然素材のみでつくられる「安比塗」の漆器の数々は、
暮らしの中でふだん使いできるものばかり。
漆器生産地だった安代地区
その伝統を受け継ぐ安比塗
縄文時代より岩手県北地方は、ウルシの木が多く自生し、日本有数の漆の産地で、漆器が多くつくられたという。
安比高原のブナ二次林もその名残だという。炭焼き用の木や漆器用の木地をつくるために原生林が伐採され、その後に生まれたのが二次林である。安比川上流で伐採された木々は、川を降って畑地区で器に成形され、荒沢地区に住む職人によって浄法寺で採取された漆が塗られた。それは「荒沢漆器」と呼ばれ、明治時代には隆盛を誇り、漆器生産に携わる人が約500名もいたという。しかし、昭和に入り、プラスチック食器の台頭により衰退していった。
職人が減少していくなか、昭和58年(1983)、荒沢漆器の伝統を後世へ伝えるために「安代町漆器センター(現・八幡平市安代漆工技術研究センター)」が設立され、「安比塗」として、伝統を踏まえつつ、現代の食生活にマッチした漆器として生まれ変わった。
長く使いたい安比塗
使うほどに色艶を増す
「安比塗」は、天然100パーセントの漆器。木地にはミズメザクラやトチなどの天然木を使い、漆は自社精製している。漆の自社精製にこだわる理由について、工藤理沙さんは、「精製の仕方によって光沢や粘度が変わり、仕上がりに影響がでるから」と話す。漆は時間が経つにつれ、硬くなっていく性質を持つため、木地にたっぷりと漆を染み込ませてから、何度も塗り重ねていく。塗っては研ぎ、研いでは塗っていく作業を繰り返す。そして、最後の仕上げ塗りに、浄法寺漆を使用する。
「手間がかかる作業ですが、深い色と質感を出すために必要なのです」
完成した漆器は、表面にわずかな凹凸があり、光が当たると柔らかな雰囲気になる。使っていくうちに表面が磨かれ、艶が増し輝いていく。また、上塗りが薄くなり、下塗りの漆の表面が見えてきて、趣が出てくる。
「漆器は扱いが難しいといわれますが、実際は違います。洗ったら、乾いた布で拭くだけです。漆器は初めてという方は、汁椀や箸、スプーンから使うとよいと思います」と工藤さん。 親から子へと長く使うことができるため、結婚祝いや出産祝いにも最適という。最近は、「よいものを長く使いたい」という人の購入も多い。もちろん、修理も行っている。長年使っているうちに上塗りが剥げてくる場合もあるからだ。
現在、安比塗漆器工房には、工藤さんを含め4名の女性塗師がいる。
「伝統を踏まえながら、女性らしいデザインの漆器もつくっていきたいと思っています」
漆器の良さは、口当たり、手に持ったときの感覚が馴染みやすいところにある。まずは実際に触ってみることをおすすめしたい。
安比高原のブナ二次林が誕生したのは約80年前。二次林は、伐採されたあとや焼失したあとに、自然または人為的に再生した樹林のことをいう。安比高原の場合は、炭焼きや漆器の木地に使用されるため伐採された。安比高原のブナ二次林には、散策道が整備され、春から秋にかけて散策する人でにぎわう。散策には、安比高原ペンションビレッジから兄畑方面へ行った先にある「ぶなの駅」からスタートするのがおすすめだ。
安比塗漆器工房(安比塗企業組合)
岩手県八幡平市叺田230-1
TEL 0195-63-1065
営業時間/9:30~17:00
定休日/月曜(祝日の場合は翌日休み)、年末年始
HP http://www.appiurushistudio.com/
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